構造を批判しつつ、どんなジェンダーの人もケアされるべきという前提に立つのがジェンダー論的な立場ですが、これがややフェミニズムと対立することがあるのは、Sも指摘していて難しいですね。ただ、その難しさは論理的なもの、理論的なものではなく、実践的…
哲学がもはや形而上学的・客観的真理を明らかにできないことが明らかになった以上、哲学は歴史哲学でなければならない。しかし、ヘーゲル的な意味ではなく、ニーチェ的な意味でそうなのだ。 哲学は歴史に、とりわけ現代に向き合いつつ、その時代が求めるもの…
ふだんいわれる意味での現実主義とは、じつのところ固定された時間を準拠とする近過去主義であり、ほんとうの「現実」を重んじる立場ではない。ほんとうの現実主義は、変化する現在の生成を重視する。だがそれでもまだ十分ではない。現実主義のエピクロス的…
ファシストは本が怖い 死者が黙っていると思うな
そして本は開かれ(その戦いはまだ終わっていないのだから) お前の石になった心臓を砕く 白の頁から、黒く、垂直に、火が(裂けて) やがて、九月に部屋の隅にこわばる肉体をみつけるだろう ふたつのからだ、灰になった静けさが、途方もなく 大きな音を立て…
海がわたしたちをその額で固めてから、海の眼で、内臓を、微かに、揺する。その黒く空を穿つふたつの存在は、まだ、距離をとったまま、浮かんでいる。かたちがなくなるまでのみじかいあいだの、星々に似た、空気の肌触りの留め金。
窓の外に流れる小川は春の日差しを不規則に反射していた。冷たい手を握っていた。既視感のあるありきたりなドラマのようで、ただ事実だけが新鮮だった。
長く俯き疫病を恐れながら読んでいた。行きには数ページほどしか読めなかったドイツ文学史が、気づけばもう近世にさしかかっている。どこか、なにかがおかしい。渋滞でもする道ではない。電光表示には一六分で錦糸町駅に着くと書いてあった筈だ。しかし、予…
1. ある種の加害が事後に救済になり、ある種の救済が事後に加害になることがある。 2. 体験された生は傷としてはじめて認識される。体験しているときには曖昧にしか認識できない。それは後になって解釈される。 3. とすれば、傷についての再解釈が可能である…
Vivre, c’est s’embarquer sans savoir où l’on va. (Pierre Legendre ) 「生きること、それはどこにいくのか知らぬまま乗り出すことだ」
無数の太陽系へと煌めき注ぎ込まれた宇宙の、とあるひなびた片隅にかつてひとつ天体があった。そこで利発な動物が認識を案出した。それは「世界歴史」のもっともうぬぼれて、いつわりに満ちた刻限、だがひとつの刻限にすぎなかった。自然がひと呼吸すれば、…
www.youtube.com 「ちょっと違う君のとは俺の意見 / 俺落としたいのは高みの見物決め込んでるそこのお前 / 高えとこそんな好きなら大気圏外まで飛んでけ / どんだけテメーだけイノセント / 便所で自分の手汚すことだけじゃなく俺が手汚すことにまで / 絶対安…
〔白月〕 ポール・ヴェルレーヌ 白月は森に映え、枝々から発される声葉は掠れ….. おお 愛するひと。 池の反射、底深い鏡、ほらシルエットその黒柳に風は泣く…… 夢みよう、いまその刻。 ゆったりと優しく安らぎがまるで降りてくるあの空から星辰は虹を彩って………
「あらゆる文明は上演、あるいは演劇化する、われわれの信じる真理のすがたを」(ピエール・ルジャンドル) 「法は信じられなければならず、さもなくば機能しない」(ハロルド・バーマン) 「古代のローマ法のすべては、ローマ人が広場で上演していたまじめ…
ときに、両の眼をとじて、暑い秋の夜、君の熱のある胸の匂いを吸いこむと、私にはみえる、幸福な海辺がひろがり魅惑にくらむ、一律な日輪の火にてらされて。 怠惰な島、そこで自然がめぐむ奇抜な木々と味の強い果実。男たちの肉体はすらりと逞しく女たちの眼…
www.youtube.com Cold chills, prison cellsLocked in, bars of steelLeave my woman tonightJust ain't feeling right 寒さに震えて、独房の中で閉じ込められて、鉄格子へ解放せよ、私の妻を今夜正しい感情を失くして Oh my Lord, praise him beSet your po…
ここは 詳細が詰まっている領域ここは めったに使われない領域ここは 生きつづけるだろう領域他の部分が取り除かれたとしてもポケットから手を出しなよひたいから汗をぬぐってなんか接続が悪いみたいだもうこれ以上の情報はいらないよそれは君のニューロンを…
彼女の息子にとって、このことばは途方もないよろこびとなった。遠足が決行されるのは確実で、 何年も待ちわびてきたように思える奇跡のようなわくわくが、あと一夜の暗闇と、一日の航海さえくぐり抜けければそっと触れてくる、という気にさせた。彼は属して…
そう、わたしたちは痛みに苦しむのだし、病気になるし、死ぬでしょう。けれどもまた、希望し、笑い、祝福もするのです。たがいに助けあうことのよろこびを知っています。誰かに癒されること、あの手この手をつかって回復することもあるでしょう。人間として…
ひとを〔ただ〕ひととして仮定するんだ。君と世界との関係を〔貨幣を媒介にした無味乾燥なものではなく〕人間的な関係だと仮定してみろ。そうすれば君は、他のものと同じように、愛をただ愛とだけ、信頼をただ信頼とだけ交換できるだろう。君が芸術を楽しみ…
以下、あるところに書いたメモを補足しつつ再掲。 昨日(たしか2022年の6月はじめ)はとある大学で講義だった。コロナ危機について、即興で話をしたのだけど、なかなか良い感じになったので個人的なメモとして軽くまとめる。 1. ジャン=ピエール・デュピュ…
コミュニケーションには暴力がともなう。 なぜなら言葉はつねに命令を含んでいるから。 A「雨が降ってきたね」 B「え、うそ、洗濯物取り込まなきゃ」 この場合、BはAの発言に「とりこめ」という命令を読み取る。 A「雨が降ってきたね」 B「え、降ってないじ…
ある人たちは––––私たちが希望的に観測しているよりもその人たちの数がはるかに多いかもしれないのだが––––戦争というものをこの世の苦悩や苦役に対する願ってもない中断とまでは考えないにしても、胸がわくわくするものと思っている。死と隣り合わせだとい…
哲学は主観的意識の〈生〉から思惟を開始する学である。これはいくら自明とはいえ強調しておかねばならない。私の心からしかはじめることができない学としての哲学。哲学が根本的に科学と相反するのは、哲学が客観を、主観を介することによってしか認めない…
毒人参が準備されるあいだ、ソクラテスはフルートでひとつの曲を練習していた。『いまさらなんの役に立つのか?』とある人が尋ねた。答えは『死ぬまでにこの曲を習いたいのだ』 ––––シオラン
まだ心づもりの定まらない時分、いや既に心は決まっていたかもしれない。もうやめにしよう。社会運動が役ではない。他に往く道があり、その道は険しい。と、片肘をつき手を頬に宛ててぼんやりと眠たげに耽っていた。雨降りならより強く感じられたであろう古…
人間というものは、自分自身の秘められた真実にとりつかれていて自分の中で育ちその人間を化物のようにしてきた。互いに化物のように見えるが、そう見る本人もまた実はやはり内に秘められた自分だけにしか通じない(すくなくともそう思いこんできた)ところ…
主よ、あなたが私を慈愛のまなざしで見つめてくださっているのですから、あなたの観ることは、私によってあなたが観られること以外の何でありましょうか。あなたは私を観ながら、隠れたる神であるあなたを私によって観させるために〔あなたを私に〕お贈りく…
これはすごいことだ。
諸々の制度が生の現象であることを忘れてはならない。 法への問いが適切に立てられなければ、生きていることに言及しても月並みなものとなるだろう。だが、わたしたちの時代にあって、法への問いはかくも不適切にさし向けられている。砕けて、こう言ってみよ…