Skit 1

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「わたしにとって最もありえないことが起こる可能性をつねに保持しつつ、惑わぬこと」
「生成の肯定?」
「いや、生成の肯定は、惑うことをも肯定すること」
「それでは身がもたないよ」
「でも、あなたはそうしてきたでしょう?」
「それでは仕事ができないよ」
「そしたらその程度の仕事ってことじゃない? あるいはあなたがその程度の人間であるか」
「わたしはその程度の人間であるかもしれない」
「ひらかれなければ。未知に身を晒すことは、Wonderなことなんだよ。人間であることをも超えられるはずだ。だから、あなたの不安は本物ではない。偽の不安。偽の迷い。偽の未来。偽の時間を生きる者、あなた」
「たしかにそうかもしれない。わたしにとっては誤認が全てだ。わかっていても、どうにもならない」
「その開きなおりがよくない」
「偽の不安によって人は生きる、だれもかれも」
「本物の不安によって、人は進化する。あなたは退化したいか」
「わたしはただ、こうして人間である」
「あなたは慰めが必要なのか、これ以上の?」
「わたしは過去の囚われ人だ」
「あなたはなにもわかってない」
「あなたはわかるのか、わたしのことが」
「わたしはあなたがわかる」
「どうして?」
「わたしはあなたなのだから。わたしが唯一の理解者で、困ったことがあるの?」
「ありがとう、でも」
「あなたを一番よく知るのは、わたし?」
「そうかもしれない、ひとの知らない経験を、あなただけが知っている。忘れてきたこともあなたは憶えているから。忘れることは健忘。でも、わたしは忘れることを恐れていた」
「あなたは忘れることが怖い。あの日々の幸せを?」
「そう、あのかけがえのない朝を、かけがえのない夜のことを」
「その生が、またふたたび起こるために」
「なにをしたら?」
「次の仕事にとりかかるべきだ」
「次の仕事?」
「あなたにはよくわかっているはず」
「わたしにはなにができる?」
「あなたにはできない」
「ならば」
「あなたにはできないことを、あなた以外のひとにやってもらうために、そして誰かができなかったことを、いままさに成し遂げているように、 あなたは生きるの。わたしにできなかったこと、わたしがどんなに手を伸ばしても届かなかったところ、そこにあなたはいる。いま、こうして、引き締まったからだをもっていて、詩を、世界に寄せることができる。あなたにはそういう歴史的な力がある。あなたの否応無しに、あなたはすでに作品であるから。あなたはすでになされているのだから」
「僕というできそこないがなにをしたって同じではないか」
「あなたにはできる、反復しかできないとしても、反復することができる。出来損ないでも、出来損なうことが」
「失敗が?」
「そう」