無題

冬の夜の息に凝結してゆっくりと降りかかる霜の様を眺めるとき、わたしを宥めるのは誰か。視界が悪いと言えるのは、まだ見るべき対象までの間隙を痛々しい物質感で刺されるような経験がないひとの不満なのだろう。ジョギングをしていて、不意にすぐ先の闇にすくみ、足をとられて躓きかけ上体を捻りもとへ戻ろうとして、それから後ろを向くかたちになり、と。途端に目の前の街灯が近い、家屋の軒が近い、空が近く、アスファルトの白線が近い、すべてはわたしの頬に触れるほどに、わたしが世界になっている。叫び出さなかったほうがおかしい。向こうから来る影があまりに速い。怖い。