ある日のサウナ

 

 サウナへ行こう。決心がついたのは午前二時であった。

 ここ一週間ほど生活リズムの乱れにより自律神経が完全に失調しており、めまい、頭痛、吐き気が慢性的に起こった。その乱れへの抵抗運動を開始して生活に平衡を保とうとするとき、一時的に失調は加速する。しかし、この抵抗がなければ永遠に立ち直ることもできない。これは自律神経失調症やそれに類する身体的困難を抱えるひとにとって一般的なジレンマではないか。

 すべてをリセットしたい。整いたい。こういう思いでひとはサウナに行く。どんなに辛い目に遭っても、サウナに行けばきっとよくなる。サウナの治癒力にはある意味で、時間の治癒力に近いものがある。どうしようもないことも、大抵はサウナと時間が解決する。

 さて、決心がついた。颯爽とした気持ちで準備をし、自転車で隣の駅のサウナまで急ぐ。夜風が気持ちいい。かなり涼しくなったのではないか。15分くらいで着いた。久しいサウナ、店構えが眩しい。

 チェックインと同時に、秘密の無限ドリンク「イオンウォーター」を購入。やっぱり人は減ってます? うーん、2〜3割減ですね、まあ、うちはいいほうですよ。最悪クラスターが出ちゃったりしてるんですかね? そうみたいだね。そうですか。そんな会話を受付のおじさんと済ませると、脱衣所で準備を整え(といっても脱ぐだけだが)、浴室へ。

 浴室内にまばらな人。自分を合わせて3〜4人か、この時間にしてはなかなかいるほうだ。みんなある程度の覚悟をもって、サウナするならこの時間しかないと思いながら来ているのだろうか。

 まずからだを清める。安いシャンプーの匂いが懐かしい。清くなったらジャグジー風呂に入る。ふう、気持ちいい。この瞬間がいちばん好きかもしれない。これから待っているサウナ・トランスへの入り口。

 からだの芯がすこしあたたまり、そしてサウナへ。最初はひとがいなかった。後からふたり入ってくる。ソーシャルディスタンスという観点から言えばなかなかの密であるが、100度のサウナであれば平気だろう。コロナは100度で死ぬらしい。それにしても熱い。久しぶりだからというのもあるけど、こんなに熱かったか。普段は8分入るところを6分で出た。無理は禁物。

 つ、冷たすぎる。水風呂が冷たい。ひとが少ないのだから当たり前なのだが、それにしてもショックが強すぎる。ここのサウナにはキンキンの水風呂(15度とか)と、ちょっと寒い日の学校のプールくらいの水風呂(23度とか?)の二つがあるのだが、いちばん良いのは前者に少し入ったあとで、後者に長く入るやり方。後者がとにかく気持ちいい。

 それから体を拭いて、休憩イスに座る。さあ、整うか? 整うのか? トランスか? トランスするのか? と、と.....、ととのない。ととのうかわりになんだか体が痺れるような感覚が。自律神経が終わりすぎてると整うこともできないのだろうか。

 一度イオンウォーターを飲んで気をとりなおす。二周目、整わない。水風呂に長く浸かりすぎてふらふらになる。三周目、整わない。もちろん気持ちいいのだが、整わない。うーん。まあ、こんなもんかとやや諦めて、最後に熱い檜湯に浸かって終わりにした。

 そのあとはいつも通り会計を済ませて外へ。まあこんなもんか、また来よう。ファミマで買ったピースのスーパーライトに火をつける。甘い。なかなかいい。よし帰ろう。そう思ってチャリに乗った。

 漕ぎはじめる。と、その時。と、と、整った〜! これが「外気ととのい」や〜! 自電車をゆるゆると漕ぎながら、やや朝焼けた空を見上げまだ少し残る夜風をからだに受けとめて、わたしは整った。

 もちろん、そのあとぐっすり眠れました。

 やっぱりサウナは、いいものですね。