Choreography 2

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フライング・ロータスで一番聴いたアルバム。聴くたび新しい。

なんともパスカルと取り合わせが悪いけど。

 

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永遠に沈黙するこの無限の空間、それを前にして私は戦慄する。

 

パスカル『パンセ』塩川徹也訳(岩波書店

 ニーチェを別にすれば、きっと一番読んだアフォリズムが『パンセ』だ。学部一年生のとき手にとってから、ひらくたび発見がある。この宇宙の無機質に触れて、存在の意味を深く問うことになったひとはわたしだけではないだろう。どこからくるかわからない不安、これと格闘して中学生のころは毎週の休みに家でひとり、生の意味を探っていた。この宇宙があり、そこで生を為して、いつか死んでいく。わたしという存在の卑小さと宇宙の無限。それを考えると空恐ろしくなった。

 おれが恐い死は、この短い生のあと、何億年も、おれがずっと無意識でゼロで耐えなければならない、ということだ。この世界、この宇宙、そして別の宇宙、それは何億年と存在しつづけるのに、おれはそのあいだずっとゼロなのだ、永遠に! おれはおれのの死後の無限の時間の進行をおもうたび恐怖に気絶しそうだ。おれは物理の最初の授業のとき、この宇宙からまっすぐロケットを飛ばした遠くには《無の世界》がある、いいかえれば《なにもない所》にいってしまうのだということを聞かされ、そのロケットが結局はこの宇宙にたどりつくのだ、無限にまっすぐに遠ざかるうちに帰ってくるのだ、というような物理教師の説明のあいだに気絶してしまった。小便やら糞やらにまみれ大声で喚きながら恐怖に気絶してしまったのだ。気がついたときの恥ずかしさ、臭い自分への嫌悪、耐えがたい女生徒の眼、しかしそれよりもおれは、物理的空間の無限と無の観念から、時間の永遠と死せる自分の無の恐怖にみちびかれ気絶したのだということを告白できず、教師と級友に癇癪だと思わせることに懸命だったのだ。

 

「セヴンティーン」『大江健三郎自選短編』(岩波書店

 こうして「科学」によるニヒリズムの危険はあるにせよ、パスカルはこの危機を先取りして、その処方箋もくれる。もっとも有名な文句だ。

人間は一本の葦にすぎない。自然のうちで最もか弱いもの、しかしそれは考える葦だ。人間を押しつぶすのに宇宙全体が武装する必要はない。一吹きの蒸気、一滴の水だけで人間を殺すには十分だ。しかし宇宙に押しつぶされようとも、人間は自分を殺すものよりさらに貴い。人間は自分が死ぬこと、宇宙が自分より優位にあることを知っているのだから。宇宙はそんなことは何も知らない。

 こうして私たちの尊厳の根拠はすべて考えることのうちにある。私たちの頼みの綱はそこにあり、空間と時間のうちにはない。空間も時間も、私たちが満たすことはできないのだから。

 だからよく考えるように努めよう。ここに道徳の原理がある。

 

パスカル『パンセ』塩川徹也訳(岩波書店

  ひとは宇宙のなかで一本の細い草のようなものにすぎない。けれど、考えることができる。ここに計り知れない人間の重さが、尊厳がある。人間なめんな、ってことだ。